【砂の城】インド未来幻想
 ムスリム美術の代表ともいえるタージ=マハルを深く愛する一方、彼は伝統的な刺繍の散りばめられた民族衣装サリーの美しさや、(なま)めかしい指先の仕草が誘うインド舞踊をこよなく愛した。故に集められた妾妃は淫らに肌を晒し、全身を着飾り、毎夜シャニの為に舞姫の如く、全霊を捧げて踊り明かすのだという。

 だがこれは民衆に広められた語り草で、誰一人見た者は居ない。

 祭りの始まりは一行の到着予定である夕暮れとされていた。期待に胸膨らませ急ぎ支度を進める家族とは裏腹に、ナーギニーの心は暗く恐怖に怯えていた。寵姫として選ばれた後には、もちろん王宮で舞えねばならない。そのため彼女の午後の日課には、舞踊の稽古も組み込まれてはいた。しかし人目に晒されたこともなく、母親相手に練習した程度の彼女が、舞踊大会に集まった幾つもの険しい視線の中、その舞台へ進み、舞い、シャニの心を勝ち取れるのだろうか。


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