【砂の城】インド未来幻想
 本日の会食は全てが(おもむき)を異にしていた。毎昼集められた黒宮の最上ドーム内ではなく、初めて白宮の屋上に連れ出される。王宮同様に大きな丸屋根が中心を陣取っているが、侍女達がその中へ招き入れることはなかった。長いテーブルと人数分の席が設けられたのは、正面側の左右小楼(チャハトリ)を支柱として、張り巡らされた天幕の下であった。

「全員お揃いかな? 麗しきお嬢様方」

 少女達が席に着いた数分後、シャニは現れるやそんな挨拶をした。今回はいつもと違い、テーブルの長手中央に腰を下ろす。雨の降り注ぐ街並を見渡せるよう、長手の向かい側に席はなく、全員が一列に並んで堪能出来るように配されていたからだ。

「皆の街では、このように十分な雨が降ることはないのだろう? 見たまえ、目の前に広がる美しい水の景色を。今日はこれを愛でながら、食事を戴くことにしよう」

 そうして順に供された料理の数々も、今までの伝統的なインド宮廷料理ではなく、少女達の知らない西欧料理のフルコースであった。雨がもたらす涼しい空気には、暑さの似合うインド料理は不似合いと見越していたのか。確かにスパイスの主張しない優しい味わいは、この温度と湿度に絶妙に絡み合い、全員の舌と喉を柔らかくとろけさせた。視界を彩る雨の情景は、あたかも淡く透けたサリーのように、森の緑と街の凹凸を心ほどけさせる色と輪郭に変えていった。


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