【砂の城】インド未来幻想
「さぁ、集まりたる紳士・淑女の各々方よ! 今一度、(うたげ)を盛り上げようではないかっ!!」

 アグラの祭りで舞踊の開始を告げたあの掛け声が、再びこの地の静寂を破り、出場者と観衆を興奮の渦に巻き込んだ。鮮やかな衣装に(まと)われた少女が、独りずつ美しい舞を披露しては去る。アンドラプラディッシュ州のクチプディに、北東部の代表舞踊マニプリ、東海岸オリッサ州のオディッシーに、ケララ州のモヒニアッタム……インド各地の古典舞踊が、各地の代表者である少女達の手で綴られていく。その度に異なる楽器・異なる歌声・異なる衣装が五感を楽しませ、其処に集った全員の心は軽やかに弾まされた。

 そして今までの行列の如く、ラストがナーギニーの出番となった。金糸で縁取られた深い(くれない)に包まれた少女は、いつになく颯爽と舞台の真中に及ぶ。不安だらけで臨んだ過去の舞踊大会、あの時の自分とは一切を決別し、華麗に舞いたいという想いだけが彼女の心を取り巻いていた。

「楽しみにしていたよ、ナーギニー」

 玉座に頬杖を突いたシャニは、ニタリと笑って声を掛けた。その姿を真っ直ぐに捉え、ナーギニーもまた微かな笑みを湛えて一礼をする。自分が自分の全てを表現出来るのは、もうこの十分しか存在しないのだ。明日からの覚悟を決めた少女の眼差しは、一瞬ですら映すことは叶わずとも、永遠(とわ)に達する愛おしみを見えない力に添え、イシャーナに向けて一心に注いだ。


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