【砂の城】インド未来幻想
 中央広場で動物達の大道芸が披露される中、クルーラローチャナ一族の到着予定時刻は無情のままに過ぎ去っていった。人々の(まなこ)はみな砂の城の地ヴァーラーナスィーの在る東へ向けられたが、何者も隠すことのない砂漠の彼方には、風に飛ばされる枯れ葉の一片さえも見つけることは出来なかった。

 焦りの生じた民は徐々に活気を失い、ひたすら目を凝らし立ち尽くしてしまう。今期の祭礼は本来の目的から大きく逸脱している――寵姫(ちょうき)選良披露の州代表選考。参加する少女達はシャニの視線を引き付け、心をも惹き込ませようと振舞わなければならない。が、そのシャニが存在しなければ――もはや祭りは祭りでなく、王をもてなす(うたげ)と化していた。

 それから数十分が流れ去り、皆の焦燥が頂点へ達した頃、黄砂の景色から一陣の風が舞い戻った。一族の進捗(しんちょく)を様子見に馬を走らせていた伝令が、汗と砂にまみれ手を振りながら、何かを叫び駆け寄った。


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