【砂の城】インド未来幻想
「きっ……来たぞー!」

 ようやく言葉となった伝令の大声に、途端呼応し発せられる、待ち焦がれた民の歓迎の騒めき。声、声、声……! ナーギニーは渦巻く音の波に、呑み込まれるような恐怖を(いだ)き、母親のサリーにしがみついたまま必死に両耳を塞いでいた。

 やがて左右前後から浴びせられた歓声の震動は掻き消え、街は神秘的な静寂を作り出した。不思議な雰囲気が少女の動揺をそっと鎮め、視力と聴力を機能させる。おもむろに顔を上げ、ヴァーラーナスィーの方角を見つめた。

 地平線の先、陽炎(かげろう)に歪んだ灼熱の空間に、黒く小さな点が確認された。それは少しずつ大きくなり、馬や駱駝に乗った人型と認められるや否や、気付けば霊廟の手前に立つ群衆の真中へ溶け込んでいった。

 まさしく「息を呑む」光景だった。そして全ての人々が「息を呑んで」しまったのだ。


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