【砂の城】インド未来幻想
 世紀末――カリ・ユガと呼ばれたその末期、人々を次代へと(いざな)う救世主は、シヴァ神その人のみであった。(註1)

 温和と冷酷という二面性を(いだ)いたこの破壊神は、苦行者の保護、人々の生殖をも司り、髪にはガンガーの女神を象徴とした三日月を頂く眉目(みめ)麗しき野生の男神である。傍らには白い牛(ナンディン)を侍らせ、遊行者(サンニャーシー)姿の身体には牛糞を燃やした青白い灰を塗り、虎の毛皮を纏い、うねる蛇を巻きつけた恐怖すべき者(ヴァイラヴァ)として表わされる。

 暴風雨神マルト神軍の父ルドラを原型となす、自然信仰を発祥とした神。三叉戟(さんさげき)の立ち(そび)える牙城ヴァーラーナスィーにおいて、シヴァは額に煌めく第三の眼を通し、この衰退した世界をどう見つめたのか――。

 彼は共に並ぶ全能神――ブラフマーの創造し、ヴィシュヌの保護した世界を殲滅(せんめつ)後、宇宙を混沌に戻すという。(註2) そしてのち、再びブラフマーが現れ、世界を紡ぎ始めるのだ。

 世界創造初期(クリタ・ユガ)。四千八百年の幸せの訪れである。(註3)


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