【砂の城】インド未来幻想
 民達を背後としたまま無言で墓廟を見上げるシャニは、一体どのような想いを馳せているのだろうか。全てが無とされ、時すらも止められた砂の画布(カンヴァス)に、唯一不動で染み込む生ける彩色。しかしそれは程なくして大きく息を吸い込み、安堵するかの如く深く空気を吐き出した。そして(のち)、彼は振り返る。ゆっくりとゆっくりと、小柄な身体を気高く見せながら。刹那民は直立不動で刮目(かつもく)し、ナーギニーの瞳も魔力に囚われたように視線を上げさせられた。完全にこちらを向き、先程とは想像もつかない大きく変化した双眸(そうぼう)で、シャニは全てを見通していた。 
  
 その照準が一直線にナーギニーの姿を貫く。そんな錯覚に(さいな)まれた少女は、呪縛から逃れる為に出来るだけ小さく身を(すく)めた。

 やがて、シャニは――。



「ごきげんよう」



 ただ一言、そういったように思われた。

 小声ながら良く通り良く響く、低い大人の声だった。張り詰めた静謐(せいひつ)な空間が、半強制的に引きちぎられ消え去る。

 それは何処か夢見心地で起立した人々に、精彩さを取り戻させる、『開始』という名の合図だった――。





■大学時に遭遇した聖者(サドゥー)?■


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