【砂の城】インド未来幻想
 少女の瞳はもう何処も見ていなかった。極度の緊張感が自己を内に閉じ込めたまま、ただ一途にくるくると回り続ける。制限時間を知らせる笛の音にも気付かず、終盤を通り越しても止まることを受け入れぬ肉体。汗に覆われたその全身は満足感と狂気に充ち溢れ、やがて何かに取り憑かれたように甲高く叫んだ。足跡だらけの砂の上に少女はどさりと倒れ、完全に意識は事切れていた。

「ラクシャシニーっ! あんたって子は!!」

 観客全員が総立ちとなり、どよめきが頂点に達した時、一人の太った中年女が大の字になった少女の元へと駆け付けたが、叫ぶや失神したその頬を容赦なくはたき出した。ナーギニーの母親同様、娘だけを頼りに裕福な未来を望んだ母親――緊張と重圧に(さいな)まれ倒れ伏した娘を気遣うこともなく、ただ怒りと失望を打ちつける――その光景は、辺りに佇む全ての民にどのような波紋を描いたのだろうか。


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