【砂の城】インド未来幻想
長く細い質素な小屋の二列に並んだ寝台の一つに、彼女は身を横たえ震えながら魔の夜を過ごしていた。暗闇に浮かび上がる正方形の天窓には、まるで額絵に嵌め込んだようにまどかな月が見事に収まり、ナーギニーの白い頬をより一層白く照らす。寝返りを打つ度に鼓動が沈黙を崩し、目を閉じていることさえ困難に思えた。
母親は怯えるナーギニーに「ただじっとして眠れば良い」のだと説き伏せ、自分の家へと帰っていった。今頃は家族全員で和やかな晩餐を楽しんでいることだろう。退屈な時もなかったとは言えない小さな家ではあるが、独りこのように淋しく眠るよりは遥かに居心地の良い場所だ。
外界との境界を薄い壁一枚で隔てる仮宿舎の中は、殺風景な折り畳みの寝台を並べただけの、全く仕切りのない薄暗い空間だった。さながら戦地に設置された急ごしらえの病院のように――いや、あたかも死体安置所か?――天窓の月光以外に光る物は、枕元に置かれた小さな輝光石のみだ。しかしそれは蒼白く壁を灯すだけで、隣の寝台までは見通すことが出来ない。闇の中を蠢く少女達の寝返りや息遣いは、ナーギニーを更に震え上がらせ、穏やかな眠りを妨げていた。
母親は怯えるナーギニーに「ただじっとして眠れば良い」のだと説き伏せ、自分の家へと帰っていった。今頃は家族全員で和やかな晩餐を楽しんでいることだろう。退屈な時もなかったとは言えない小さな家ではあるが、独りこのように淋しく眠るよりは遥かに居心地の良い場所だ。
外界との境界を薄い壁一枚で隔てる仮宿舎の中は、殺風景な折り畳みの寝台を並べただけの、全く仕切りのない薄暗い空間だった。さながら戦地に設置された急ごしらえの病院のように――いや、あたかも死体安置所か?――天窓の月光以外に光る物は、枕元に置かれた小さな輝光石のみだ。しかしそれは蒼白く壁を灯すだけで、隣の寝台までは見通すことが出来ない。闇の中を蠢く少女達の寝返りや息遣いは、ナーギニーを更に震え上がらせ、穏やかな眠りを妨げていた。