【砂の城】インド未来幻想
 壁の向こうでは音楽と喧騒に紛れて、人々の笑い声が聞こえてくる。ナーギニーを眠らせないものは大勢の少女達でもあり、また恐怖と好奇心をそそる夜の(うたげ)でもある。

「……ねぇ、どうしたの? 眠れないの……?」

 外からの大きな笛の()が響き、ナーギニーが反射的に肩をすくめた時だった。今まで寝息すら聞こえてこなかった右側の寝台から、(ささや)くような小さな問いかけと長い影が近付いてきた。

「……あっ……」

 夜の暗闇を集めたような揺らめきは、彼女に蚊の鳴くような過細い悲鳴を洩らさせた。

「あら、驚かせてしまったかしら……ごめんなさい。あなた、ずっと震えているようだったから」

 黒々とした塊だった声の主は、寄るにつれ月と石の光を浴び、徐々にその姿を現した。

 大人びた女の声が示す通り、褐色の肌に刻みつけられた顔も身体も、十代とは思えない色気の帯びた姿をしている。


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