【砂の城】インド未来幻想
 まもなく墓廟の西端へ差しかかるといった頃、ついにナーギニーの足はよろけ、その拍子に手元が離れ自由になった。お陰で倒れることはなかったが、砂の上に両手を着き膝も落としてしまう。地面を見下ろしながらしばらく(あえ)ぐことをやめられず、やっと呼吸が落ち着きを取り戻した時、目の前で待っている筈のシュリーを見上げようとしたが、突如吹き抜けた疾風が少女の視界を遮っていた。

「……きゃ……!」

 砂塵が巻き上がりナーギニーの大きな瞳を襲う。目を(つむ)って激しいうねりに耐え、やがて平穏を取り戻した世界を映そうと瞼を開いた。しかし先程まで光を放っていた満月は雲に隠され、松明もまた風が(さら)ってしまったように、明々(あかあか)と照らしていた炎は掻き消されていた。

「え……?」

 一瞬の出来事にナーギニーの思考は停止した。あれほど鮮やかだった紫の霊廟は、ただ空を黒々とさせる巨大な闇の塊に変わっていた。


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