【砂の城】インド未来幻想
「シュ……シュリー……?」

 恐る恐る身体を立ち上げてみたが、見える物は赤黒く化したサリーの(ひだ)と、煙に(いぶ)されたような自身の腕だけだ。そして……ずっとその手首を握っていたシュリーの柔らかな声が、彼女に応えることもなかった。

「シュリー……シュリー!」

 ナーギニーはまるで暗黒の宇宙に取り残されたみたいな心細さに(さいな)まれ、今まで上げたこともない悲痛な声で彼女の名を叫んだ。けれどその響きは風が溶かし、見えない先から何ものも返ってくることはない。

 遠く右側を望めば、かろうじて続いている宴の(ほの)かな明かりが見える。其処へ行って尋ねようか? 少女はすがることの出来る相手を求めたが、きっと言葉は続かない。それに独りきりで夜を彷徨(さまよ)う娘がどれほど男達の恰好の的であるか、彼女とて分からない訳ではなかった。

 ――シュリーは……確か「上へ上がってみましょう」と言っていた……きっとタージ=マハルの上だわ。

 依然黒い山のような墓廟を見上げる。(かす)かに戻ってきた心の静けさが、僅かな希望の(きざ)しを記憶から手繰り寄せた。


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