【砂の城】インド未来幻想
 ――私が其処へ来るのだと思って、待っているのかもしれない。

 徐々に闇に慣れ始めた瞳で、頼りない足元を踏みしめて歩く。時折寄せる波のように、泣き出したい気持ちが胸を詰まらせたが、かろうじて押し留め、涙が行く先を曇らせることはなかった。

 近くに寄った白い大理石は、日中照らされた光を集めたように、ほんのり明るさを漂わせていた。壁伝いに進み、やがて基壇上に続く階段が現れた。インドは元来聖なる場所では裸足となる風習がある。彼女も同様にサンダルを脱ぎ片手で摘まんで、滑らかに磨き上げられた白亜の床に足裏を触れさせた。夜の冷気がひんやりとした感触を与えた。

 階段を昇った先は高く広々とした方形の空間だった。中心に(そび)え立つ廟本体を正面にして、左右の隅に二本、ずっと奥の端にまた二本、計四本の尖塔(ミナレット)が偉大さを見せつけながら天高く見下ろしている。廟の手前には地下に続く空洞があり、(いにしえ)に飛び立った王と王妃の(ひつぎ)が眠っていたが、それは既に朽ち果てて久しい。真上に息巻く雄大なアーチの入口は、黒大理石の象嵌(ぞうがん)によるアラビア語のコーランに讃えられ、内部へ立ち入る者を無言で圧倒する大きな暗蔭(あんいん)(はら)んでいた。


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