【砂の城】インド未来幻想
「あっ……」
驚いたように声を洩らしたのは青年の方だった。衣越しにナーギニーの両肩へ置いた手を、慌てて離して一歩を下がる。月光はナーギニーの表情を読み取れるほど輝きを帯びていたが、その影となった青年の姿は、背の高いシルエットを神々しく浮かび上がらせただけであった。
「君、舞踊大会の参加者かい? 出場は明日? 眠れなくて此処に来たの?」
質問攻めにされたナーギニーは、青年を囲う光を見つめたまま呆然と立ち尽くしてしまった。奏でるような清廉とした声、象られた姿も凛としてしなやかな雰囲気を放つ。彼の面差しも装いも、何もかもが闇に紛れて見えずとも、青年が生まれながらに持つ澄み通った気品が、ナーギニーの心の琴線に触れたようだった。
「君の名は?」
もう一度問いかけられて、ナーギニーの連れ去られた心が在るべき場所へ戻ってきた。――自分の名前。伝えたら彼の記憶の一部となろうか? が、震える唇がそれを紡ぐことはない。
驚いたように声を洩らしたのは青年の方だった。衣越しにナーギニーの両肩へ置いた手を、慌てて離して一歩を下がる。月光はナーギニーの表情を読み取れるほど輝きを帯びていたが、その影となった青年の姿は、背の高いシルエットを神々しく浮かび上がらせただけであった。
「君、舞踊大会の参加者かい? 出場は明日? 眠れなくて此処に来たの?」
質問攻めにされたナーギニーは、青年を囲う光を見つめたまま呆然と立ち尽くしてしまった。奏でるような清廉とした声、象られた姿も凛としてしなやかな雰囲気を放つ。彼の面差しも装いも、何もかもが闇に紛れて見えずとも、青年が生まれながらに持つ澄み通った気品が、ナーギニーの心の琴線に触れたようだった。
「君の名は?」
もう一度問いかけられて、ナーギニーの連れ去られた心が在るべき場所へ戻ってきた。――自分の名前。伝えたら彼の記憶の一部となろうか? が、震える唇がそれを紡ぐことはない。