【砂の城】インド未来幻想
「……ナーギニー……ナーギニー、どこー!?……――」

 けれど彼女の名は遠く仮宿舎の在る西の方角から、シュリーの声で響き渡った。ハッと後ろを振り返るナーギニー。まだその姿は見えないが、確実に呼び声は近付いている。

「ナーギニーって……いうんだね?」

 少女がホッと安堵の息を吐いたことに、青年は気付いたようだった。同じ穏やかな気持ちを含みながら、ゆっくり彼女の名を口にする。しかしその途中で僅かに言い淀んでいたことは、鼓動が耳奥を木霊してやまないナーギニーには気付くことは出来なかった。

 彼の影に振り返り、やはり何も言えないまま、それでもナーギニーはコクリと大きく頷いてみせた。

「ナーギニー! 居るの~!? 居るなら返事してー!!」

「シュリー……」

 シュリーの必死な叫びに彼女は困ったような呟きを零した。返事をしてと言われても、シュリーに届く声が出るだろうか? 特にこの青年を目前にする、『今』というこの瞬間に。

「友達が探しているみたいだね。君はもう行った方がいい。僕もそろそろ(うたげ)に戻るとするよ」

 そうして青年は墓廟正面の階段へ顔を向けた。整った鼻梁が光輪を(まと)う。それは一瞬の内に再び少女を見下ろして、相変わらずその表情は見えなかったが、ナーギニーには微笑んでいるように思えた。


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