【砂の城】インド未来幻想
「そう言えば、これ……どうしたの?」

 落ち着きを取り戻したシュリーは、ナーギニーの肩から掛けられた白い(ころも)に気付き手を差し伸べた。「ちょっと来て」と彼女の手を引いて暗がりから身を移す。月に照らされて益々白く輝いたそれは、ナーギニーには大き過ぎる立派な外套(マント)だった。

「もしかして……これ!」

 シュリーは辿り着いた自分の推測に大声を上げて、慌てて胸元の金刺繍に手をやった。細長い土星の紋章にヒンディー語の文字。……それは……クルーラローチャナ一族を意味していた。

「あなた……一族の誰かと会ったのね?」

「あ……私……」

 ナーギニーの瞳から今までを探ろうとシュリーは顔を(かし)げたが、その合わされた視線にナーギニーはたじろいてしまった。あの青年が一族の人間だったとは……とはいえ、その身から放たれていた気高い雰囲気を思い出せば、容易に想像に到ることではあるのだが。

「落ち着いて、ナーギニー。宿舎に着いたらこのマントは隠すのよ? これがシャニ様に知れたら大事(おおごと)になるかもしれないわ。……でも大丈夫。明日明後日に持ち主に会えたら返せば良いことだし、もし会えなくても、寵姫(ちょうき)選別期間に砂の城で返せばいい……もちろん、あなたがシャニ様の(もと)に嫁ぐ気持ちがあるのならね」

 シュリーはマントごとナーギニーの肩を抱き締めて、仮宿舎を目指して歩き出した。抱え込まれ足並みを促されたナーギニーは、シュリーの言葉に戸惑いを隠せず、ただそれを脳裏でグルグルと巡らせるばかりであった――。



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