【砂の城】インド未来幻想
 準備を終えた二人は舞踊大会の観客席へ急いだ。仮宿舎から一歩を踏み出した途端、ねっとりとした風が身体中に絡みつき、じんわりと汗が噴き出してくる。会場はまさに灼熱に包まれていた。太陽と人々の興奮が織りなす熱気。陽炎(かげろう)がゆらゆらとたゆたい、ナーギニーは一瞬グラリと眩暈(めまい)を引き起こした。

「しっかりしなさい、ナーギニー。あなたが今日あの場所で演じる全てが家族を救う道になるのよ。父さんも兄さんももう客席に居るわ。皆心配して応援に来ているのよ。あなたも頑張りなさい」

 母親はナーギニーの首に巻かれたドゥパッターを広げ、少女の頭に掛けてやった。膝に着いた手をグイと掴み客席に連れ込む。父親の隣に促し、右側には母親が腰を降ろして砦となるが、大勢の人々に囲まれて息苦しい気持ちすらしてしまう。午前を終えるこの時間、屋根も木陰もない砂の上で、空腹のまま見学するのは死を意味すると言っても過言ではない。屋台で買った得体のしれない食べ物を兄から差し出されたが、ナーギニーはただ俯いて首を振り、拒むことが精一杯だった。


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