【砂の城】インド未来幻想
「……ナーギニー? あれ……ナーギニーじゃないか!?」
途端遠くから聞こえてきた『噂』の名は、一息にその場の全ての視線を少女へ引き寄せていた。
「そうだ! あんな綺麗な女はナーギニーしかいない……ナーギニーがいたぞー!!」
この声が、この叫びが、幻であれば良いとどれほど思ったことだろう。だがそれは明らかに現実であり、自分のすぐ傍からずっと先の小さな影まで、殆どの男性が立ち上がるのが見えた。彼らが波のように押し寄せる様は、瞳から脳まで伝達するよりも早く、少女はもはや救いの声も発することが出来なかった。
おそらくは以前シュリーの話した「窓の外を眺めるあなたを一目見る為に、はるばる遠くからやってくる人」の一声だったのだろう。縦横から群がる男達の顔つきは、空腹に耐えかねて獲物に襲いかかる野獣の貪欲さに満たされていた。
「ナーギニー!!」
母親の声も、男達の叫びも、全てが混ざり合って悪魔の唸りと化し彼女を襲う。いつしか強く握り締めていた母親の手は、うっすらと手首に跡を残したきり何処かへと消えてしまった。自分を囲う黒々とした男共の大きな影。肌から放たれる汗にまみれた体臭と、髪から立ち昇る安っぽい臭いは、少女の呼吸も止めようとした。
途端遠くから聞こえてきた『噂』の名は、一息にその場の全ての視線を少女へ引き寄せていた。
「そうだ! あんな綺麗な女はナーギニーしかいない……ナーギニーがいたぞー!!」
この声が、この叫びが、幻であれば良いとどれほど思ったことだろう。だがそれは明らかに現実であり、自分のすぐ傍からずっと先の小さな影まで、殆どの男性が立ち上がるのが見えた。彼らが波のように押し寄せる様は、瞳から脳まで伝達するよりも早く、少女はもはや救いの声も発することが出来なかった。
おそらくは以前シュリーの話した「窓の外を眺めるあなたを一目見る為に、はるばる遠くからやってくる人」の一声だったのだろう。縦横から群がる男達の顔つきは、空腹に耐えかねて獲物に襲いかかる野獣の貪欲さに満たされていた。
「ナーギニー!!」
母親の声も、男達の叫びも、全てが混ざり合って悪魔の唸りと化し彼女を襲う。いつしか強く握り締めていた母親の手は、うっすらと手首に跡を残したきり何処かへと消えてしまった。自分を囲う黒々とした男共の大きな影。肌から放たれる汗にまみれた体臭と、髪から立ち昇る安っぽい臭いは、少女の呼吸も止めようとした。