【砂の城】インド未来幻想
「どうやら君は時の人らしいね。聞こえる? 君が居ないのに気付かず騒いでいるのか、君が消えたのに驚いて探しているのか……けれどこれからは君も少し自覚して行動した方がいい。そろそろ出番が来るのなら、早く更衣室へ行かないと……独りで戻れるかい?」

 不思議な人。ナーギニーは恥じらいながらも、心の隅でそう思った。昨晩も今も、青年は困っている自分の前に現れ、次にすべきことを指示してくれる。

「あの……ありがとう、ございました……」

 ナーギニーは初めて青年に声を発し――そう出来た自分も、それを耳にした彼も、満ち足りた笑顔を交わしてしばしの時を分かち合った。と共に湧き上がる淡い希望――こんな素晴らしい人が傍に居てくれたら……けれど所詮彼も一族の人間だった。

「あの……マ、マントを……」

 同時に思い出された「預かり物」を口に出したが、それは自分の衣装を入れた鞄の底に隠してあった。今は母親が持っている筈だ。それを上手く説明出来るだろうか? 取りに戻る時間があるだろうか? ナーギニーは途中で諦めたように唇を閉ざし、再び俯いて押し黙ってしまった。


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