【砂の城】インド未来幻想
 ややあって上から少女を覆っていた影が近付き、今一度かち合った瞳が(まばゆ)い光を与えた。

「心配しなくて良いよ。マントのスペアはまだあるから。でも君がどうしても返したいと言うのなら、砂の城で渡してほしい。僕もあの多くの男性達と同意見で、君の舞を見たいんだ。そしておそらくシャニ……様もね。舞踊を見る以上、僕は君と砂の城で再会することを望む」

 表情は優しくも、或る意味シュリーと同じ真剣な眼差しでそう告げられた。

 ナーギニーは真っ直ぐ先の瞳の奥を見つめ、次第に心が凪いだ海原(うなばら)のように穏やかになるのを感じた。与えられた勇気は、あのシュリーの手を握り締めた時と同じ色と温度を保ち、ナーギニーの怯える未来に明るい(きざ)しを生み出していた。寵姫(ちょうき)候補から外され奴隷として生きる道と、強欲で醜い老王の(めかけ)として生きる道。どちらも不幸の道筋に他ならないが、ナーギニーは我が身を「青年との再会」という「小さな幸せ」に托してみたい気持ちになっていた。どちらかを選べと言われたなら、この青年に会うことの出来る妾の未来の方がどれほど素晴らしいことだろう。例え肉体は藩王の物になろうとも、心は青年に奪われることの出来る一握りの幸福。


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