【砂の城】インド未来幻想
 一呼吸を置き、少女は姿勢を戻して舞を始める体勢に入った。自分を抱き締めるように右手を左肩へ、左手を右肩へ。少々腰を屈め、左脚を優雅にくねらせる。顔はやや下向きが正しい状態であったが、前方からの熱視線を感じて上げた瞳の先に、人垣から頭一つ飛び出した青年の姿が垣間見られた。シャニに最も近いながら死角となる、昨夜彼が駆け下りていった東の階段を隠す壁面の手前。

「心配しないで。落ち着いて、自然のまま踊ればいい」

 騒々しい歓声の中では聞こえる筈もなかったが、青年が口を動かしたのを見て取り、ナーギニーは他には気付かれないよう小さく頷いた。きっとシュリーも何処かで自分を見ていてくれる。二人からの励ましを受け取った気がして、再び胸に熱い物が込み上げた。


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