【砂の城】インド未来幻想
「……シ……ヴァ……――」

「どうかしたの? ナーギニー、凄い汗よ」

 悪夢から目覚め初めて目にした光景は、蝋燭の薄灯りに照らし出された母親の赤茶けた顔であった。窓の外には既に夜の戸帳が降り始めている。

「あなた、とうとう一日目を覚まさなかったわね。それにしてもシヴァ神の御名(おんな)を寝言で言うなんて、夢の中でまで祈りを捧げてたっていうのかい? もう祈ったってどうにもならないのに」

「……」

 心配というよりも呆れたという母親の口振りに、ナーギニーの心臓は握り潰されたみたいな強い痛みを覚えた。母親の冷酷な言葉と同じ色を放つ暗闇は、彼女の出場した大会当日晩のものと思われたが、どうやら二十四時間を経た翌日宵の時刻だと諭された。結局彼女は祭り三日目の終焉ギリギリまで意識を取り戻さなかったということだ。

 上着を(まと)い、部屋を出て行こうとする母親の疲れ切った背を、ナーギニーは躊躇(ためら)いながらも何とか呼び止めた。


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