【砂の城】インド未来幻想
 奇跡とも思えたこの数日の麗らかさは跡形もなく消え去り、屋外は先程の夢のように、どんよりとした空の下を鋭い風が吹きすさんでいた。彼女は家族から数歩遅れて、頭から被った更紗(さらさ)を必死に押さえながら、砂煙の中を何とか離されずについていった。

 あの夢は一体何を意味していたのか――タージ=マハルから振り返った背後には、一度とて見たことのない砂の城が(そび)え立っていた。両親からそれは「タージと瓜二つであること」・「白大理石と黒大理石の宮殿が対をなしていること」・「透明なドームの中に隠されていること」とは聞かされていたが、こうも鮮明に描画されるものなのか。そして自分は何故(なにゆえ)彼を『シヴァ様』と呼んだのか――?

 しかしこの夢を機に、ナーギニーはあの名乗らなかった青年を『シヴァ』と呼ぶことに決めた。タージ=マハルで独りきり、成す術もなく立ち尽くした自分を、そしてあの男達の襲撃からも救ってくれた――そんな想いが偉大なる救世主の名を戴くことに迷いを伴わせることはなかった。


< 98 / 270 >

この作品をシェア

pagetop