【砂の城】インド未来幻想
 やがて空に立ち込める黒い(もや)の中に、薄っすらとタージ=マハルの輪郭が出現した。その下の人ごみが近付くにつれ、幾つもの言葉の揺らめきが辺りを漂い始める。どうやら三日目の舞踊が終わり、そろそろ優勝者の名が発表されるようだ。ナーギニーの家族は既に諦め切っていて、進める歩みを速めも緩めもしなかった。が、半奴隷になる前のせめてもの想い出にと、シュリーと青年に一目会うことを願うナーギニーは、やや小走りに家族を追い越し、人だかりの中へ消えていった。

「――……三日間という長く盛大な舞踊大会が今、滞りなく無事終わりを迎えた。皆、ご苦労であった。……さて、これより優勝者を発表するが……――」

 基壇上、王妃を従えた藩王シャニは、辺り一面を埋め尽くす人の海にねぎらいを投げ落とした。その波間をするすると縫っていくナーギニーは、やがてシュリーらしき女性の後ろ姿を見つけた。

「優勝者は……」

 あと数歩、あと一歩、ナーギニーは右腕を上げ、ひとときの幸せに手を伸ばす。

「……二十五番、ガルダ村……」

 少女の唇は震えながら、目の前に佇む輝きを帯びた彼女の名を呼ぶ為、ゆっくりと開かれた。

「「……シュリー!!」」

 ナーギニーの声に重なったのは、優勝者の名を告げるシャニの低い声だった――。


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