婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
「アリステル公爵様」
「……なんだ?」
私の呼びかけに怪訝な表情で振り返る。
治癒士としてどんな患者にも平等に接してきたお父様。いつも繰り返し言っていたのは。
『命の重さはみんな一緒なんだ。痛いのも苦しいのも、みんな一緒なんだ。そういう人たちを助けるために、月の女神様は私たちに力を授けてくださったんだよ』
私は父の教えを胸に治癒士をやってきた。だからこそ、許せない言葉がある。
胸を張り、治癒士としての誇りを掲げ、まっすぐにアリステル公爵様を見据えた。
「護衛騎士だからといって、怪我をしていいということではありませんっ!! ましてや身を挺しておふたりを守った騎士の命を、軽く扱わないでください!!」
「くっ……!」
それだけじゃない。大切なのは、前を向いて生きていく希望。愛する人とともに歩む未来。
私は手に入れられなかったけれど、イライザ様は違う。
「それにイライザ様は、心からジルベルト様を愛していらっしゃいます」
「だからなんだというのだ! 政略結婚など貴族の義務ではないか!」
「そうですけれど、愛する人と結婚するのはいけないことですか?」
「…………」