婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。

 たまにラティシアとあのまま結婚していたら、どうなっていたかと考える。

 私が当主になることはなかったけれど、ラティシアならちゃんと私を見てくれたのだろうか。あの時、愛と権力の両方を求めたのが間違いだったのか。

 私は公爵家の三男だったが、当主として辣腕を振るいたかった。だが、ラティシアはあくまで期間限定だと言った。

 妻が当主になるのが嫌だったから、前からアプローチを受けていたビオレッタの誘いに乗りラティシアを嵌めたのだ。
 ビオレッタなら私を愛し、私を当主にしてくれる存在だと信じて疑わなかった。

 そんな時に転移の魔道具まで用意したうえで国王から招集がかかり、王城でフィルレス殿下の婚約者が発表された。

 私はラティシアの姿に目を奪われた。
 美しく結い上げられた銀の髪、利発的な紫水晶の瞳、細くしなやかな曲線を描く肢体、所作はスマートで優美。
 学生の時の幼さは消えて、どこを取っても極上の女性になっていた。

 激しい後悔の念が込み上げたが、今更だ。
 フィルレス殿下の婚約者として発表されてしまったし、私はすでにビオレッタを妻にしている。

 側室は国王にしか認められていない。どちらにしても王太子の婚約者に手を出すことなど叶わない。
 やはりあの時に選択を間違えたのだと思い、ビオレッタに対して嫌悪感が増すだけだった。



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