婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。

 ろくに休憩も取らず旅路を急ぎ、一週間かかる道のりを四日で走破した。疲れた身体にむちを打って父の執務室へと向かう。
 それなのに返ってきた言葉は無情なものだった。

「マクシス、これ以上は支援できない。お前が領地経営を上手くやれ」
「そんな! 父上、どうしてですか!? 今までだって支援してくれたのに、これくらいならナダリー公爵家にとって小銭みたいなものでしょう!?」
「金額の問題ではない! 圧力がかかったのだ!」
「やはり……! あの女が、ラティシアの仕業ですね!?」

 父は一瞬なんのことか意味がわかっていない様子だった。

「ラティシアです! 私の元婚約者で、カールセン伯爵家の嫡子だった女です! アイツが手を回したのでしょう!?」
「はあ……なにを寝ぼけたことを言っておる。あんな小娘では我が公爵家に圧力をかけることなどできんわ」
「違うのですか? ではいったい誰が……」

 父の顔色がどんどん悪くなっていくのを見る限り、よほどの相手なのだろうか。そうだとすると、三大公爵家か王族くらいしかいない。

「王族……いや、でもあのフィルレス殿下が?」
「マクシス、私はもうお前に手を貸すことはできん。銀行も金貸しも決して融資しない。自力でなんとかするしかないんだ、わかるな?」

 怒鳴ったところすら見たことがない温厚な王太子が、このような腹黒いことをするのかと疑問に思う。
 しかし父がなにも言わないということは、それが正解なのだろう。とにかく私はもう、融資を受けられない。

 どうやって資金繰りするのか、それだけで頭がいっぱいになる。

 私が部屋を出る時に「すまない、マクシス」と呟いた父の声は、耳に入ってこなかった。



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