婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
* * *
マクシス様が久しぶりにタウンハウスに戻りバタバタとうるさかったけど、珍しくわたしに文句を言わないので気分は悪くなかった。
なにより今はお気に入りの愛人がいるから、そちらに夢中だ。
「ねえ、今度はいつ会えるの?」
「貴女が望むならいつでも会いにきますよ」
「本当? じゃぁ、また明日会いにきて」
「明日も? 明日も俺と会ってくれるのですか?」
ベッドの中で甘く囁く彼は、紫紺の髪に吸い込まれそうなシルバーの瞳でわたしを見つめてくる。くっきりした目元、スッと通った鼻筋は高く、薄い唇は冷酷そうなのに、全身で愛を囁いてくれる。わたしよりも四歳も年下だけれど、すっかり大人の雰囲気で優しく甘やかしてくれた。
「ええ、もちろんよ。はあ、グレイが領地経営できれば、夫と離縁してグレイを当主にするのに」
「それは光栄ですが、俺はまだ未熟者ですから」
「もう、そんな謙虚なところがいいのよ。あ、そうだわ、なにか不足していることはない? 援助するわよ?」