婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
バハムートが訓練場のようなスペースに降りると、早速ひとりの騎士が声をかけてきた。夕陽色の短髪が印象的な、穏やかそうな青年だ。
「ラティシア・カールセン様ですね?」
「はい! フィルレス殿下から通達が来ていると思うのですが、この度は王太子妃の判定試験でやってまいりました」
「もちろん、伺っております。私はコートデール家の嫡男オリバーと申します。父が待っておりますので、ご案内いたします」
「オリバー様ですね、よろしくお願いいたします」
小さくなったバハムートを肩に乗せて、オリバー様の後に続く。要塞のような城に足を踏み入れると、城の中は飾り気がなく無骨な印象で、扉も凝った装飾などされていなかった。
「このような城で窮屈かと思いますが、用意した部屋はマシかと思います」
「いえ、部屋を用意してくださっただけでありがたいです。それにしても、まるで要塞のようで逆に安心感がありますね」
「ははっ、そのように言っていただいたのは初めてです。妻もそうでしたが、貴族のご令嬢たちは堅い笑顔を浮かべるだけでした」
「コートデール領は魔物の出現が多い土地ですから、民を守るためのものでしょう? それに無駄な装飾をしないのは、そこへ費用をかけずに防衛に回しているからではないのですか?」