婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。

「じゃあ、今、幻影の森にボス的な魔物がいるかどうかわかる?」
《それはそこの駄犬に聞けばよかろう》
「この子犬に? どうして?」

 私が疑問を投げかけると、バハムートは空のように青い瞳を子犬に向けて面倒そうに声をかけた。

《おい、いつまで寝ておる。いい加減起きぬか。ワンコロ》
《誰がワンコロだっ!! ふざけんなよ、デカいだけのトカゲのくせに!!》
「えっ! 犬がしゃべった!?」
《犬じゃねえ!! 幻獣フェンリルだっ!!》

 幻獣フェンリル……この子犬が?

《お前っ! 今、この子犬が?って思っただろう! いいか、これは仮の姿なんだ! 本来のオレは、もっとデカくて勇ましくて、強いんだ!!》
「わかったわ、とにかく汚れを落としましょう。血まみれになっているから」
《お、お前が風呂に入れてくれるなら、オレを洗うのを許可してやる》
「ふふっ、いいわ。その代わり私のことはラティシアと呼んでね」

 オリバー様にお湯の準備を頼んで汚れを落とすと、それはそれは見事な銀色の毛並みとシルバーの瞳が現れた。フェンリルがブルブルと身体を震わせ、風魔法で水気を吹き飛ばしていく。
 バハムートと同じ銀色の色彩で魔法が使える。私と会話もできて、本当に幻獣フェンリルなんだとしみじみ思った。

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