婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
僕から逃げられると思ってる?
今回も僕の計算通りに、ラティはコートデール公爵家からも合格判定を受けた。
事前に判定試験の知らせを送る時に、魔物の被害に困窮していたコートデール公爵に口添えをした。
ラティは以前領地の魔物討伐で後方支援をしていたことがあり、治癒室で六年間勤務していた。僕の専属治癒士だが非常に優秀だと。
完璧に治癒できる能力があれば、いかに戦闘が楽になるか、どれほど勝算が上がるか彼ならすぐに計算できるだろう。最後に、婚約者のためならどんな協力も惜しまないと付け加えた。
その絶望に染まる表情さえ愛おしい、と言ったらラティは間違いなく怒るだろう。そう思いながら元気づけるための提案をする。
「ラティ。今日は疲れているだろうから、帰るのは明日にしない?」
「ええ、そうですね。さすがに一日中気を張っていたので、そうしてもらえると嬉しいです」
「少し休んで身体が大丈夫なら、後で散歩に行かない?」
「散歩ですか?」
「うん、実はコートデール公爵領ならではの絶景ポイントがあるんだ。バハムートならすぐだから」
「それは行ってみたいです!」
「ふふ、ではまた後で」
少女のように瞳をキラキラさせるラティが、たまらなくかわいい。このまま妻にして、すべてを僕のものにしたい。
でも今はまだ、ラティの心が手に入っていない。それではダメだ。この笑顔のまま僕のものにしたいのだから。
「さて、ラティがひと休みしているうちに、ほかの雑務を片付けるか」
僕はバハムートのもとへ向かった。