婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
「ふむ、確かに君の治癒魔法は特別効果が高いからね。では、こうしようか」
誰もがうっとりする微笑みを浮かべて、ラティをまっすぐに見つめた。
「僕以外の人間にこの治癒魔法を使ってはダメだ」
「えっ、どうしてですか?」
どうしてもなにも、僕がラティを独り占めしたいからに決まっている。だけど、そんな言い方をしても、今のラティは聞いてくれないだろう。
「変に懐かれたら困るだろう?」
「うっ、確かに……」
「だから、これから癒すのは僕だけだ。いいね?」
これで話を聞いてくれると思っていた。それなのに返ってきた言葉は。
「いいえ、目の前に怪我人や病人がいたらは約束できません。これでも治癒士なので」
決して揺らがない意志を宿す瞳が、僕を射貫く。夜空に煌々と輝く月のような誇り高いラティに、さらに心を奪われた。最初に会ってから日を追うごとに、底なし沼に落ちるようにラティに溺れていく。
もうどうしようもないほど、僕はラティを愛していると自覚した。