婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
「……そんなラティだから手放したくないんだ」
「っ! いえいえいえ、私では王太子妃など不相応ですから」
そう言って視線を逸らすラティを見て、今までと反応が違うと気が付く。
ほんの少し頬が桃色に染まってる? でも視線は合わない。助けを求めるようにチラチラとバハムートやフェンリルに視線を向けている。
「ねえ、まさか僕から逃げられると思ってる?」
「逃げるなんて滅相もない! ただ婚約を解消したいだけです!!」
「ふーん、そう。まあ、今はそれでいいよ。では約束通り、空中散歩に行こうか」
「は、はい……!」
元の大きさになったバハムートの背中に乗り、あっという間に大空へ飛び上がった。
太陽はすでに地平線に沈んで、東の空には濃紺のベルベッドが敷き詰められたようになっている。うっすらと西の空がピンク色に染まっていて、そのグラデーションは心が震えるほど美しい。
僕の前に座るラティがこの景色に、感動の声を上げた。
「うわあ! この時間の空中散歩は素敵ですね!」
「そうだね、この景色も美しいけれど、もっといい所があるんだ。バハムート、さっき話した場所へ」
《承知した》