婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
目的地はコートデール公爵の城から南に十キロメートル下った場所にある、小高い丘だった。
ここからはコートデール領を見渡せるようになっていて、幻影の森は漆黒の闇となり、城の周りには灯りが集まり民の営みが見て取れる。
「ここからコートデール領の民の暮らしが見えるんだ。あの灯りのひとつひとつに、それぞれ生活があって、家族がいて、笑顔がある」
「そうですね、本当に心温まる絶景です」
「……ラティのおかげで、あの灯りが、民が救われた」
僕はラティがどれほど大きなものを守ったのか、見せたかった。
「そ、そんな。結局魔物を討伐したのはフィル様です」
「ラティがいなければ、僕はここに来ていない。だから判定試験を受けると決めたラティのおかげだよ」
「それは、こじつけでは——」
ラティの言葉を遮って、額にキスを落とす。
僕は先ほどのラティの反応から、ふたりの関係を少し前進させた。ラティは石みたいに固まって動かない。予想通りの反応に笑みがこぼれる。
「ふふっ、そろそろ帰ろうか」
「……はい」
その後のラティはなにも話さなかったけど、耳まで赤くなっているのが月明かりでわかったので、僕は上機嫌だった。