婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
第一部 第五章 裏切りの代償

ルノルマン公爵家の審判


 コートデール公爵領から戻ってきて、私は自身の変化に戸惑っていた。

 まず、朝の健康観察の時にフィル様にじっと見つめられると、変な汗をかくようになった。どうやってスルーしていたのか思い出せない。
 毎日の癒しの時間もそうだ。

「ラティ、昨日はあまり眠れなかった? 少し疲れているみたいだね」
「ち、近すぎです! フィル様!」
「そう? いつもと変わらないけれど?」

 私が焦って距離を取ろうとすると、嬉しそうに近寄ってくるフィル様を強く拒否できない。
 なんというか……フィル様の笑顔を見ると、私の心の中は花が咲いたみたいにふわふわと浮き足立つ。誰かの笑顔はいつも心が温かくなるけれど、それとはちょっと違う気がする。

「フィル様、回復したなら政務に戻ってください!」
「ふふっ、そうだね。そろそろ戻るよ」

 はあああ、どうしたんだろう。前のように落ち着いて対応したいのに、うまくいかない……。

《ラティシア、なにフリーズしてんだよ》
「フリーズしてないわ。考え事してただけよ」

 足元の銀色の神獣となったフェンリルが声をかけてきた。ゴーレムを倒した後、幻影の森は平和を取り戻したので、フェンリルは仲間に森を任せてきたのだ。ゴーレムに負けたのが悔しくて、修行の旅に出るつもりで挨拶に来たのがあの夜だった。
 けれどフィル様が最強の生物だと確信して神獣になり、王都へ一緒にやってくることになった。

 とにかく次が最後の判定試験だから、ここで不興を買うしかないわ! 王太子妃に相応しくないと証明するのよ!



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