婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
緊急事態
もうベッドへ移動できないほど、青年の手足は麻痺していた。意識が混濁してきたのか、話しかけても反応がない。今すぐに治療をしないと持たない。
私は素早く床に寝かせて癒しの光を発動させる。
途端に白い光が手のひらからあふれ、青年の身体を包んでいく。すでに全身に症状が現れていたから、ほんの少しも残らないように治癒していった。
私の手のひらから放たれる白い光が室内に充満して、眩しさで目を閉じる。指先から伝わる感覚で、確実に治癒を進めていった。
なかなか強力な毒物を摂取したようで、手こずった部分もあったけどなんとか身体からすべて除去できた。
白く輝く光が消えていき、青年の姿がはっきりとしてくる。
だけど、光が収まってみればそこに横たわっていたのはまったくの別人だった。
漆黒の艶髪、すっと通った鼻梁は高く、適度な厚みのある唇はうっすらと開いて色気さえ感じられる。固く閉じられた瞳の色はわからないけどまるで彫刻のように整った美貌は、数日前に婚約破棄騒動が起きた夜会で見かけた。
フィルレス殿下がなぜここへ——!?