婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
「ああ! シスター! ごめんなさい、この子が火傷をしてしまったので、私が手当てをしてきますね!」
「え? いえ、それは大丈夫です。私が処置しますから」
「いえいえ! ルノルマン公爵家の名に泥を塗るわけにはいきませんので、私が! 早く手当しないと! あちらの部屋をお借りしますね!」
私は慌てたふりで男の子の手を引き、有無を言わせず隣の部屋に移動した。手を引かれてきた男の子は困惑している。
「お姉ちゃん、ボクは火傷なんてしてないよ」
「急にごめんね。私は治癒士だから違うところを怪我してるって気が付いたの。内緒で治してあげたくて」
「でも……シスター様に怒られる」
「火傷と一緒に治してくれたと言えば大丈夫よ。私からも話すから。悪いところは全部治したいから、診せてくれる?」
「……わかった」
そう言って男の子がシャツを脱ぐと、そこには隠れた部分にだけ打撲痕や裂傷痕がびっしりとあった。
「これはシスター様が?」
「うん、僕たちは悪い子だからお仕置きだって。僕たちがちゃんとすればご飯ももらえるし、痛くされないから、僕たちが悪いんだ」
「君たちが悪いことなんてひとつもないわ。みんな痛いことされるの?」
「なにか失敗したり、うまくできなかったりしたら、みんなお仕置きされる」
「わかったわ。今すぐ治してあげたいけど、先に済ませないといけない用事があるから待てる?」
「うん、待てる」
私はゆっくりと立ち上がり、細く長く息を吐いた。