婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。

「まったく、国を傾ける前に戻ってこい。勘当処分は解くから領地のために尽くすんだ。それと、男を誘う素振りはするなよ。最悪、私の妾にしてやるからありがたく思え」
「どうしてもお義姉様が難しいのでしたら、わたしが代わりますわ。その方がフィルレス殿下も心安らぐと思うの」
「お前では王太子妃は務まらん。フィルレス殿下も見る目のないお方だ。なぜこんな性悪女を選んだのか——」

 そこでうっすらと微笑みを浮かべていたラティシアが、口を開いた。

「いい加減にしてくれませんか?」
「な、なに!?」
「はあ!?」

 今までこんな口答えなどしたことがなかったので、私もビオレッタも驚いた。昔から私の話もビオレッタのわがままも、すべて聞いてきたというのに。まるでゴミでも見るように蔑んだラティシアの視線が、私たちに向けられている。

「私は今、カールセン伯爵の婚約者でもなんでもありません。フィルレス殿下の婚約者なので、他の異性に色目を使うということもありません。逆にお聞きしますが、私がカールセン伯爵の目にそんな風に映っていたのですか?」
「そんなわけっ……!」
「しかも妾にする? 勘弁してほしいです。自分を裏切り欺いた相手を受け入れられると? 馬鹿なんですか?」
「馬鹿だとぉ!?」

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