婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。

 カッと顔が赤くなる。まるで私が、今でもラティシアに執着しているような言い方ではないか。確かに美しいからそばに置きたいとは思ったが、それだけだ。決してラティシアに心を奪われたわけではない。

「なによりフィルレス殿下への暴言は聞き捨てなりません。訂正してください!」
「ぐっ……!」

 静かに、だが毅然と私に正面切って意見してくる。ラティシアはこんな女だっただろうか?
 その気迫に押されて、一歩後ろに下がった。

「ちょっと、お義姉様! いくらなんでもひどいわ!」
「……ひどい? 誰のこと? 義姉の婚約者を寝とった義妹のこと?」
「でも正当な後継者はわたしなのよ!!」

 ビオレッタが負けじとラティシアに噛みついた。
 だがその時パチンッと硬質な音が鳴り、小さな音にもかかわらず会場の空気が変わる。

「正当な後継者、か——それについては私にも話を聞かせてくれ」

 そこへ現れたのは、孔雀の羽があしらわれた扇を手にしたルノルマン公爵だった。

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