婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
「うむ、本日は存分に話を聞かせてもらおう。ではこちらにかけてくれ」
「はい、よろしくお願いいたします」
お義姉様が席に着くと、今度は貴婦人たちの視線がわたしとマクシス様へ集中する。マクシス様の腕が揺れて、挨拶をするのだと気が付いた。添えていた手を放してカーテシーをする。
「本日はお招きいただきありがとうございます。カールセン伯爵家の当主マクシスと申します。こちらは妻のビオレッタでございます」
「お初にお目にかかります。ビオレッタでございます。皆様どうぞよろしくお願いいたします」
マクシス様が優雅な仕草で礼をしたので、わたしもカーテシーをする。いつもはこれで、主催者や相手から声がかかり体勢を戻して会話を始めるのだが……なかなか声がかからない。
カーテシーで深く腰を下げている状態をキープしているのはつらかった。
「ふむ……では、こちらへかけてくれ」
限界寸前でルノルマン公爵から声がかかり、やっと席に座ることができた。
いくら三大公爵だとはいえ、初対面でこの仕打ちはどうなのかと憤慨したけれど、そんなことを口にできるはずもなく呑み込んだ。