婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
ひらりと身を翻したフィルレス殿下に受け止めてもらえず、勢い余って生垣に突っ込んでしまう。
「お、お義兄様……!? ひどいわっ!!」
「え? まさか、専属治癒士でもないのに僕の身体に触れようとしたのか?」
「もしそんなことになっていたら、即刻牢屋行きだな」
「それにお前に義兄と呼ぶことは許可していないけれど」
フィルレス殿下の氷よりも冷たい視線を、正面から受け止めてしまって、もう動くことすらできなかった。
生垣に突っ込み両手と顔は傷だらけだけど、痛みも気にならない。ただ、これ以上動いたらとんでもなく危険だということは理解できた。
お義姉様はフィルレス殿下に宝物のように抱き寄せられ、甘い微笑みを向けられている。
「それでルノルマン公爵、聞き取りはいかがでしたか?」
「やはり治癒魔法は使えないとのことです。これは血筋に問題がございます」
「調査をありがとう。ではこれではっきりしたので、君たちの処分を言い渡す」
処分? 君たちって誰のこと?
今日はお義姉様の調査ではなかったの?
——違う、これは違う。誰がお義姉様が王太子妃に相応しいかどうかの調査だと言った?
手紙には判定に関する調査としか書かれていなかった。
わたしたちは大きな勘違いをしていたのだと、やっと気が付いた。