婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
それはあの時にあきらめたものだ。
父が誇りを持って受け継いできたカールセン伯爵家。治癒魔法しか使えないけれど、それでも人々の役に立とうとしてきた兄たち。
その誇りを理解して支えてきた母は、どんなに馬鹿にされても笑顔を絶やさなかった。
私を支えてくれた、家族の愛と矜持が詰まっているカールセン家。
それが、私のもとに戻ってきた?
「うん、今はラティがカールセン伯爵だよ。領地に帰りたい時や屋敷に戻るときは相談してね」
「本当に、私の手に戻ってきたのですか……?」
「ああ、君が正当な後継者であると証明できたからね。簡単だったよ」
「フィル様……」
自分の根源が戻ってきたような安堵感に包まれる。
家名という決して代わりのきかないものを、フィル様は取り戻してくれた。なんでもないというように、それが当然だと言ってくれた。
どうして、こんなにも私の心に寄り添ってくれるの? もしかして、本当に私を心から求めてくれているの?
でも、それなら……どうして好きだとか、愛してるとか言ってくれないの?