婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
第一部 第六章 その瞳から逃げられない
私の居場所
穏やかな午後の日差しが差し込む中庭で、私はフィル様と今日もまったりとお茶の時間を過ごしていた。
専属治癒士の制服は判定試験が始まってから着用していない。
今もパステルイエローの生地にスカイブルーのリボンが飾られたドレスを身にまとっている。ハーフアップにした髪はゆるく巻かれて、青いカーネーションの髪飾りが彩りを添えている。
ここは城内を行き交う人たちが通る廊下に面した中庭なので、人通りはそこそこある。できれば誰の目にも触れない場所がよかったけれど、「ラティ、これは業務命令だよ?」と言われたら反論できなかった。
「まあ、なんてお似合いのおふたりなのかしら!」
「フィルレス殿下もラティシア様をとても大切にされていて、羨ましいわ〜」
「ねえ、ご存知? ルノルマン公爵様のお茶会のこと」
「ええ! 聞きましたわ! フィルレス殿下の愛に触れて、恥じらうラティシア様が天使のようだったと……!」
「アリステル公爵夫人も、ラティシア様を……」
なんて会話を繰り広げるご婦人たちが通り過ぎた。
先ほどからこれに近い会話がちらほら聞こえてくる。私がカールセン伯爵になったと知らされてからは、他の貴族たちもすり寄ってきて、なにかと声をかけられた。
今までは治癒魔法しか使えない、義妹を虐げた非道だと言われてきたのに、華麗な手のひら返しに感心したくらいだ。