婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
「フィル様、そろそろお茶の時間を終わりにしませんか?」
「どうして? まだ三十分しか経っていないよ。休憩は半分残っているけれど」
「いえ、せめて執務室で休みませんか?」
廊下を通り過ぎる貴族や官僚、騎士たちの視線を感じないところに今すぐ移動したかった。いたたまれなくて仕方ない。
「執務室だとどうしても政務のことを考えてしまうのだけど……そうだな、ラティが残りの時間、僕の膝のうえで過ごすなら戻ろうか」
「あ、すみません。こちらで結構です」
「そう? 気が変わったらいつでも言ってね」
この腹黒王太子のことだから、あえてこんな場所を選んだに違いない。これではますます私とフィル様が仲のよい婚約者だと印象づけてしまうではないか。
だけどフィル様の膝のうえなんて、勘弁してほしい。あんなに至近距離では心臓がいくつあっても足りない。
最近では視線が合っただけでバクバクと心臓がうるさいのだ。できるだけ接触は避けたかった。
もうフィル様から逃げるのは無理なのかと、ぼんやり思い始めていた。
ところが、ルノルマン公爵様の判定結果が明日にでも発表されるというタイミングで、事態は急変した。