婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。

 その日もいつものように、衝立で隔たれた寝室のベッドに潜り込んだ。少し遅れてフィル様が寝室にやってきて、隣のベッドに腰を下ろす。私の方が寝室に来るのが早いなんて珍しいことだった。
 さらにベッドに入る様子はなく寝る気配がしない。フィル様は短いため息を吐いて言葉を続けた。

「ラティ、すまない。少々面倒なことになった」
「なにかあったのですか?」
「皇女が僕と結婚するために戻ってくる」

 聞かされた内容に思わず飛び起きる。

「皇女って……エルビーナ様ですか!?」
「ああ、どうも皇帝から僕の妻になるよう命令されたようで、使者として皇太子までついてくるそうだ。つい先ほど陛下から聞いた」

 フィル様の声は重く沈んでいた。
 初めて会った時にエルビーナ様について愚痴っていたくらいだから、その気持ちはよくわかる。でもそれなら私はどうなるのだろう?
 もしかして、もしかしなくても婚約者ではなくなる——?

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