婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
「では、私は……」
「ラティが婚約者なのは変わらないから安心して。僕から婚約破棄することも婚約解消もない。不安にさせてごめんね」
「いえ……」
婚約者でなくなるかもしれないと考えた時の自分の気持ちに驚いていた。
私はちっとも嬉しくなかった。
こんな風に衝立の向こうにフィル様の息遣いを聞きなから眠ることも、腹黒全開な愚痴を聞くことも、私が本当にピンチの時に助けてくれることも、甘く柔らかい笑みを浮かべて名前を呼ばれることもなくなるのかと思った。
それはもはや私の日常であって、心の深いところまで浸透していた。
フィル様は全身で私を求めてくれるし、他の人には決して向けない眼差しを私にだけ向けてくれる。
言葉はなくても誠実な行動や態度から、いつの間にか私はフィル様を信じていた。
また裏切られるのかと、そう感じたのだ。
「ラティ、なるべく早く片付けるから、どうか僕を信じてくれる?」
「はい……」
信じます、と続けることができなかった。
もし、信じてまた裏切られたら、私は今度も立ち直れるだろうか?
でも帝国の皇女であるエルビーナ様との結婚を、小国である我が国が断れるものなのか?
結局、私はまたすべて失うの——?
不安な気持ちをかき消すように、ギュッと毛布を握りしめた。