婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
私はフィルレス殿下が目を覚ますまでそばにいようと、ベッドの隣の椅子に腰を下ろした。
今までの経験から、声上げても無駄だと言うことはよく理解していた。
フィルレス殿下が目覚めたら、王族に触れた不敬罪で国外追放してほしいとこちらからお願いしてみよう。下手に牢屋に入れられるより、きっと生存確率が高まる。
自由さえあれば、どの国でも治癒士として生きていけるのだから。
代々続いたカールセンの血を残せるかわからないけど、こんな状況ならご先祖様もあきらめてくれるだろう。両親と兄たちの冥福は、私の心の中で祈り続けていくしかない。
「うっ……」
「フィルレス殿下?」
「うぅ……は……」
「お目覚めですか、フィルレス殿下」
ゆっくりと開いた瞳はくっきりとした二重で、晴れ渡る空のような鮮やかなブルーの虹彩に思わず見入ってしまった。視線を泳がせていたが、やっと私を捉えたようでじっと見つめてくる。
「ここは王城の治癒室です。治癒魔法で毒を除去しましたがご気分はいかがですか?」
「あっ、そうだ! 僕は——」
ハッとしてフィルレス殿下は起き上がる。その動作がスムーズで、顔色も良くなっているようだから完全に解毒できたようだ。