婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
「申し訳ありませんが、婚約は解消しません。ですので帝国へお戻りください」
「なっ! なんですって!? 誰に向かってそのような口を利いているの!?」
エルビーナ皇女は、思い通りにならないと知って激昂する。だけどフィル様の対応は毅然としたまま揺るがない。
「なんと言われてましても、僕の意見は変わりません。政務が滞りますのでお引き取りください」
「 ……っ! 絶対に、フィルレス様は絶対にわたくしの夫になるのよ!!」
そう言い残して、エルビーナ皇女は執務室を後にした。
「フィルレス様、あの女はいかがいたしますか?」
「そうだな……帝国を敵に回すのは面倒だし、皇帝の命令となるとそう簡単には帰ってくれないよね」
「なにか目的がありそうですね」
「うん、グレイとシアンに探らせよう」
私はなにも言えずに、成り行きを見守るしかできなかった。
その翌日から、エルビーナ様は朝から執務室にやってきて、私が座っていたソファにかけて一日中フィル様の後をついて歩くようになった。
ソファはエルビーナ皇女が使っているので、私はアイザック様の隣に立つことになる。アイザック様が私を気遣ってくれるのはありがたかったけど、それが余計に私を情けない気持ちにさせた。
フィル様と会話しようとするとすかさず割り込んできて、私はそのままフェイドアウトする。食事の時もフィル様にずっと話しかけて、私は無言のまま食事を終えた。