婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
この昼食後、いつも癒しの時間と称してフィル様に治癒魔法をかけていた。今日からはそれを復活させようと思っている。これはソファのお願いをしに行った時に、イライザ様に提案された。
イライザ様は治癒魔法の最中に何度か執務室へ訪れたことがあり、その様子を目にしていた。自信満々で効果抜群だから絶対にやれと言われたのだ。
私が恥ずかしいのを我慢すればいいのだから腹を括った。
食事中はいつものペースでエルビーナ様が話しかけまくり、フィル様は適度に冷たくあしらっている。それでもエルビーナ様はへこたれない。
食事が終わり、いつもならお茶を飲みながら少しまったりするところでフィル様に声をかけた。
「フィル様、今日からはその、癒しの時間を持とうと思うのですが、いかがでしょうか?」
「えっ! いいの!?」
「はい、フィル様が嫌でなけれ——」
「嫌じゃない! むしろ癒しの時間がなくて元気が出なかったんだ!」
満面の笑みを浮かべるフィル様に、エルビーナ様は不思議そうな顔で尋ねる。
「なんですの? その癒しの時間とは?」
「ラティだけができる、僕の治癒の時間です。悪いけれど今後の政務に支障が出るので、お待ちいただけますか?」
黒い笑顔のフィル様の顔には(邪魔したら容赦しないよ?)と書かれていて、お願いだからエルビーナ様は大人しくしていてと心の中で祈った。