婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。

「君が治癒魔法をかけてくれたのか?」
「はい、僭越ながら私が毒を除去いたしました。変化の魔法を使われてましたのでフィルレス殿下であると気付かず、御身に触れてしまい誠に申し訳ございません」

 そう言って床に膝をつき頭を下げる。私は国外追放にしてほしいと言うタイミングを見計らっていた。

「そう、だったのか。いや、すまない。城下町へこっそり出ていたから変化の魔法をかけていたのだ。気を遣わせたね。毒を除去してくれて助かった」
「いえ、治癒士として当然のことをしたまでです」
「君のおかげで命拾いしたよ。ああ、そこの椅子にかけてくれないか?」
「……? 椅子にですか? かしこまりました」

 フィルレス殿下の意図がわからないが、逆らえるわけもないので指示に従う。先ほどまで腰かけていた椅子に戻った。どうしよう国外追放にしてくれと頼むタイミングが掴めない。

「改めて礼を言う。本当に助かったよ、ありがとう。それで……君の名は?」
「私はラティシア・カールセンと申します。フィルレス殿下が回復されてなによりです」
「そうか、君がカールセン家の……」

 名前を隠したところで調べればすぐにわかることだ。正しく名乗っておいた方が、処罰の知らせを出す際に手間が省けるだろう。

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